洞(うろ)というやさしい穴を持っている
太刀魚や遠き光を撥ね返し
忘るるにつかふ一日を蔦茂る
待たされて美しくなる春の馬
秋の湖しばらく息を吐かずにおく
霧吹きの口さびしさや春の宵
蜥蜴の尾つるりと黒を選びとる
競泳の水底という四角かな
ヨットより出てゆく水を夜といふ
君の遣ふ言葉は薄し舟遊
湖の底の祭りを掬ひに行く
俳句集「海藻標本」 佐藤文香
作者は1985年生まれ。高校生(中学?)のときから、作句をはじめられたようだ。
出会ったときがその人のタイミングとは思うけれど、はじめての恋愛や妊娠、出産のときに、もし川柳と出会っていたら、どんな句を残しただろう・・・と思う。
手にとったときは、タイトルに違和感を覚えたが、読み返すうちにうまいなぁと納得。澄んだ水の中から救い上げた思いの草を、ゆっくり乾かしてできたことばを集めたような趣き。
『待たされて美しくなる春の馬』 ダントツでこの一句が好き。春の陽のような淡くやわらかな高鳴りに、輝きはじめる馬・・・だれにも止められない、どうしようもない美しさ。


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